「好き」を積み上げて山の頂へ 身体の声を聞きながら100マイルに挑む“続ける力”の正体 鈴木 桂

鈴木 桂

無理せず自分らしく。仕事と練習を
楽しみながら続けるマインドセット

― 現在のお仕事について教えてください

普段は保険関係の法人営業をしています。新卒でこの業界に入り、コールセンター部門や研修部門など、いくつかの部署を経験してきました。現在は法人のお客様を担当し、それぞれの組織や働く方々の状況に合わせて、保険の設計や提案を行っています。営業というと数字や成績のイメージが強いかもしれませんが、私の場合は長期的にお付き合いするお客様が多く、信頼関係を築きながら課題を一緒に考えていくスタイルですね。直接クライアントの声を聞き、それに対して自分なりに考えた提案が形になる瞬間には、大きなやりがいを感じます。
私にとって仕事は単なる業務ではなく、人生を豊かにするための大切な基盤なんです。仕事が充実しているからこそ、プライベートの活動も思い切り楽しめますし、仕事という生活の糧があるから、遠方の山やレースにも挑戦できます。「仕事+α」があることで相乗効果が生まれ、充実感を得られるんだと思いますね。

― 忙しい中、練習時間はどう確保しているんですか?

一番意識しているのはタイムマネジメントですね。仕事のスケジュールをできるだけ前倒しで組み立てて、やるべきことをきちんと終わらせる。可能であれば 18時半頃には仕事を終え、トレーニング時間を確保するようにしています。とはいえ、毎日思い通りにいくわけではありません。仕事が長引く日もありますし、疲れている日もあります。そんな時は「完璧じゃなくていいから、できる範囲でやる」と決めています。10km 走れない日は 5km でも 3km でもいい。短い距離でも、外に出て体を動かす。その積み重ねが大事なんです。仕事とトレーニングは、どちらも自分の生活にとって大切なもの。だからこそ無理をしすぎず、続けられる形を常に探しながら取り組んでいます。

― 職場の方は、鈴木さんの活動を知っているんですか?

はい、知っています。最初は「そんなことをしているように見えない」と驚かれることが多かったですね(笑)。見た目もいわゆるアスリートらしくはないと思うので、そのギャップに驚かれるんだと思います。でも今では、「次はどこのレースに出るの?」と声をかけてくださったり、リアルタイムで結果を追って応援してくださる方もいて。そうした反応はとても励みになりますし、仕事をする上でのモチベーションにもなっていますね。

陸上からマラソンへ、
少しずつ続いてきた挑戦

― 走ることとの出会いは、いつ頃だったのでしょうか?

中学・高校では陸上部に所属し、主に 800m などの中距離を走っていました。いわゆる強豪校というわけではなく、普通の部活動という感じで、活動日数も限られていましたね。それでも、走ること自体は純粋に好きで、できる範囲で続けていた記憶があります。大学に進学してからは、特定のサークルやクラブに所属することはなく、友人と気軽に走れるイベントに参加する程度でした。記録を狙うというよりは、「走ることを楽しむ」という感覚のほうが強かったと思います。社会人になってからは、会社のランニングコミュニティに声をかけてもらったことをきっかけに、走る時間が少しずつ増えていきました。そこには学生時代に本格的に陸上に取り組んでいた人たちが集まっていて、皇居を走ったり、仲間と一緒に大会に出たりするようになりました。
初めて出場したハーフマラソンは、正直とてもきつかったです。2時間近くかかって、「もう出たくない」と思ったほどでしたね(笑)。それでも年に 1本、2本と少しずつ大会に出るうちに、いつの間にかハーフマラソンばかり年間 10本以上走るようになっていました。

― フルマラソンへの挑戦は、意外と最近だそうですね

フルマラソンに初めて挑戦したのは、実はここ 2年ほどのことです。それまではハーフが中心で、フルにはなかなか踏み切れずにいました。体調面の不安もあって、簡単に決断できなかったんです。初めてのフルマラソンは茨城の勝田マラソンで、結果的にはサブ3.5 で完走することができました。きつかったですが、「自分にもできた」という感覚が強く残りましたね。振り返ると、陸上部時代からこれまでの走りが少しずつ積み重なって、完走につながったのだと思います。

「身体が強いわけじゃない」それでも、
挑戦をやめなかった理由

― これまで、身体の面で大きな不安や困難もあったそうですね

実はこれまでに肺気胸を 4回経験していて、そのうち 3回は手術をしています。肺に穴が空いてしまう病気で、突然、胸の痛みや息苦しさが出るんです。初めてなったときはとても怖かったですし、「またなるかもしれない」という不安は、正直今もあります。直近では数年前、富士山をトレランスタイルで登った翌日に発症しました。職場で胸部に違和感を覚えたので、すぐに病院に行き、レントゲンを撮ったところ肺がしぼんでいることがわかって、そのまま緊急手術になりました。

― それでも、走ることをやめようとは思わなかった?

不思議なことに、「やめよう」と思ったことはありませんでしたね。多分、本当に走るのが好きなんだと思います。走るのって、特別な準備がいらなくて、着替えて外に出ればすぐ始められる。相手もいらないし、場所も選ばない。その手軽さが、自分には合っているんです。
ただ、無理をしてまでやろうとは思っていません。身体が資本だということは、誰よりも身をもってわかっているので。だからこそ、以前よりも身体の声をよく聞くようになりました。少し違和感があれば無理をしない、疲労が強いときはしっかり休む。病気を経験したからこそ、「続けるためにどう向き合うか」を考えるようになったと思います。

― 日々のケアで意識していることはありますか?

睡眠をしっかり取ることや、サプリメントを含めた栄養補給、定期的に整体に通うなど、自分の身体を守るためのことは日常的に意識しています。今は「結果を出すために無理をする」よりも、「長く楽しみながら続ける」ことを大切にしたい。自分のペースで続けていけば、見える景色はきっと変わっていくと、これまでの経験から感じています。

その雰囲気からは想像できない
アグレッシブなプライベート

― 本格的に山にのめり込んだきっかけは?

山に入るようになったのは、20代の頃、会社の仲間と一緒に身近な山にハイキングに行くようになったのが最初でした。山頂でコーヒーを飲んだり、お弁当を食べたり、景色を眺めたり。自然の中に身を置く時間がとても心地よかったんです。その頃は、山を走るなんて発想はまったくありませんでした。ただ、「山が好き」という気持ちだけは、ずっと自分の中に残っていましたね。トレランを始めてから、その 2つが自然と結びついた感覚です。走れるところは走り、きついところは歩きながら山の中を進んでいく。その自由さに、すっかり魅了されていきました。

― 日本 100名山制覇に挑戦されているそうですね

始めてから 2年半ほどで、44座に登りました。今年だけでも 20座ほど登っています。(2025年 11月時点)自分でも、ここまでハイペースになるとは思っていませんでしたね。日帰りで行ける山ばかりではないので、金曜日の夜に車で出発して、登山口で車中泊することもあります。朝早くから登って、下山したら移動して、同じ日にもう 1座登るなんてことも。行程を考えるのも楽しいですし、限られた時間の中でどう山を組み合わせるかを考えるのも、ひとつの楽しみになっています。

― 山には 1人で? それとも仲間でわいわい?

山岳会の仲間と行くこともありますが、タイミングが合わない時や、行きたい山が決まっている時は 1人で行くことも多いですね。自分で車を運転して、登山口でそのまま車中泊するんです。職場の方や知人からは、「本当に 1人で行くんですか?」と驚かれますけどね(笑)。普段の仕事中の雰囲気からは、あまり想像がつかないのかもしれません。でも、山の中で 1人で過ごす時間は、私にとってとても大切な時間なんです。誰かに合わせる必要もなく、自分の体調やペースと対話しながら進められるので、1人でも十分楽しめるんですよ。

― 山のどんなところに、そこまで惹かれるのでしょうか

山は、行くたびに違う表情を見せてくれます。天候や季節によって景色はまったく変わりますし、同じ山でも訪れるたびに感じ方が違う。最近登った会津駒ヶ岳*1 や平ヶ岳*2 では、山頂に広がる景色や美しい木道を目にして、「ここまで来てよかった」と心から思いましたね。体力的にはきついことも多いですが、その分、山頂に立った瞬間の達成感や幸福感は格別です。特別な才能がなくても、強い身体でなくても、準備をして、一歩ずつ進めば辿り着ける場所がある。そのことを、山はいつも教えてくれます。
*1 福島県南会津郡檜枝岐村 標高 2,133m
*2 新潟県魚沼市と群馬県みなかみ町の境界 標高 2,141m

山を走るという挑戦。
100マイルの先に見えたもの

― トレランはいつから始めたんですか?

トレランはまだ始めたばかりで、初レースは 2024年の春、青梅高水パラチノース国際トレイルランのロング(30km)でした。2戦目が 6月の奥信濃 100トレイルランニングレースで 100km に挑戦。これはかなりきつくて、ギリギリ完走できた感じでしたね。そして 2025年 4月に Mt.FUJI100*3 に出場しました。トレランを始めた当初から、「いつか 100マイルを走りたい」という気持ちがあったんです。まだ 4戦目だったこともあり、周りからは「早すぎる」「飛ばしすぎ」と言われたりもしましたが、夜間走行に備えてナイト練習をしたり、補給や装備を何度も試したりしながら準備を重ねて挑みましたね。100マイルは、もちろんすごくきつかったんですけど、自分の中での目標タイム通りに走れて、すごく楽しかったです。また 2026年も挑戦したいと思っています。
*3 国内最高峰のトレイルランニングレース。制限時間 45時間、総距離 168km

― 今後の目標は?

100名山もそうですが、目指しているのは、やはり山岳に強いランナーになることです。山を楽しみながら走り、長い距離にも耐えられる強さを身につけたい。そして、いつかは海外レース、最終的には厳しくも美しい『トルデジアン*4』にも挑戦したいですね。
ただ、単に記録を追うだけでなく、10年後も今と同じように山に挑み続け、走ることを楽しんでいる自分でありたいと思っています。そのために、長く付き合っていく足腰や体のケアを怠らず、持続可能な身体づくりを大切にしていきたいです。決して簡単な道ではありませんが、「山を楽しく走り続けたい」という気持ちは、これからも変わりません。その未来への想いがあるからこそ、今の挑戦があるのだと思っています。
*4 イタリア北部で開催される世界最高峰のウルトラトレイル。制限時間 150時間(約 6日間)、総距離 330km

【商品Pick up】UTA SUPLI を飲みはじめて―

奥信濃のレースで限界を感じたとき、エイドで手に取ったのが UTA SUPLI でした。暑さと疲労で「もう厳しいかもしれない」と思った場面で摂取し、最後まで走り切れた感覚があります。それ以来、練習でもレースでも必ず携帯するようになりました。ロングレースや強度の高い山行では、回復を意識できることが何より大切です。UTA SUPLI は、無理をせず、挑戦を続けるための“土台”を支えてくれる存在だと感じています。

鈴木 桂

私のタイムスケジュール

平日スケジュール
休日スケジュール

私の記録

2025年神流マウンテン&ウォーク 40k 総合 7位 女子年代別 3位
2025年上州武尊スカイビュートレイル 80k 総合 14位 女子年代別 3位
2025年奥信濃 100k 総合 26位 女子年代別 11位 
2025年Mt Fuji 100mile 完走(38時間 38分)
2024年上尾シティハーフマラソン (93分) 女子年代別 3位
2024年上越妙高エクスプレストレイル 35k 総合 9位 女子年代別 優勝
2024年奥信濃 100k 完走
2024年青梅高水国際トレイル 30k 完走
★百名山 2023年~2年半で 44座登頂